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2008年2月20日 (水)

アラン・ロブ=グリエが死んだ。

 アラン・ロブ=グリエが死んだ。

  新聞の死亡欄に、ひげもじゃの老いた顔が載っているのを見つけて、ああ、死んじゃったのかあ、という思いとともに、三十数年前の自分の姿が頭の中のスクリーンに甦った。

  新潮社からでた、平岡篤頼訳の「ニューヨーク革命計画」を小脇に抱え、長髪で痩せこけて、サンダルをぞろぞろ引きずりながら、ハイライトをくわえて、うつむきながらキャンパスを歩いていた自分の姿を思い出した。
  本当に、暗かったねえ、あのころは。神様が現れて、もう一度、あの時代に戻らせてやろうという思し召しをお示しくださったとしても、丁重にお断り申し上げたいくらいに、時代も自分自身も暗かった。
  しかし、何を好き好んで、ロブ=グリエなんか読んでいたんだろうか。いや、それは正確ではない。「ニューヨーク革命計画」を読了した記憶はない、どころか、どんな話だったのかも皆目思い出せないのだ。

  思い出せないのは、ロブ=グリエだけではない。 ミシェル・ビュトールもナタリー・サロートもクロード・シモンもフィリップ・ソレルスもル・クレジオも、なーーんにも、覚えてはいない。うんうんいいながら、格闘しつつ何冊かは読んだはずなのに、そのかけらさえ、脳味噌の中には残ってはいないのだ。

 それも、しょうがないのである。彼ら、ヌーヴォー・ロマンの作家たちは、従来の小説の概念や作法を根底から否定してスタートしたわけだから、もう、何が何だかよく分からない、のである。ストーリーもあるのかないのかよく分からない、面白いのか面白くないのかさえ、分からない。ということは、面白くなかったんだろうな、きっと。面白ければ、少なくとも、なんであるのかは分かったはずだから。

 そのころからである。フランス人というのは、本当に分けの分かんないことを、ぐずぐずぐずぐず表現する面倒くさい人たちなのである、ということを理解し始めたのは。

 しかし、当時の大学生たちは、戦後のフランスに発祥した、そんな文学の新思潮に、真摯に立ち向かおうとしていたのである。今から思うと、なんでそんなに真面目だったのか、よく分からない。よく分からないが、その真面目さを思い出すと、ちょっと泣けてきそうになる。
  サルトル、カミュの次の世代に立ち現れた、実験的小説を理解しようと悪戦苦闘していたのである。本来ならば、まず語学を習得した後に原書に向かうべきなのに、男子学生は、そんな辛気臭いことはやってられんない、と平岡篤頼氏や菅野昭正氏の翻訳本に頼ったのだった。

 愚かなことであった。今ならば、たとえ、迂遠な道のりに見えたとしても、語学をまず習得することが最短コースであることを知っている。「語学を学ぶ」ということは、単に単語を覚えたり、文法をマスターしたりすることではなく、「その言語で生きる人々の物の考え方を学ぶ」ことであるから、その回路を通過して新思潮に接するのが、理解に到達する最も手っ取り早い方法なのである。後悔先に立たず、とはよく言ったものである。

 で、気分がとってもおフランスになっていたところに、京都に住むエリチンこと関谷江里さんからメールがとどいた。関谷さんは、泣く子も黙る、道で遊んでいた子も走って逃げる、パリ&京都マニアである。ソルボンヌの「外国人学生のためのフランス文明講座」の一番難しいクラスをちゃんと履修した、まじめな方であるが、なぜか、京都の魅力に取り付かれ、昨年、東京の自宅を引き払って、京都に移り住んでしまったお方である。仕事で京都を訪れた際には一緒にご飯を食べたり、お茶を飲みに行ったりしていただいている仲である。

  その関谷さんと、数年前、今出川のル・プチ・メック(Le Petit Mec )というパン屋さんに出かけたことがある。小さなパン屋さんだが、気分は完全にパリのパン屋さんという風情で、壁にはゴダールの映画「Pierrot Le Fou」(気違いピエロ)やルイ・マルの「Zazie dans le métro」(地下鉄のザジ。レイモン・クノーが原作だったなあ、そういえば)の馬鹿でかいポスターが貼られ、フランスのラジオ放送がずーっと流れている。その空間にいると、その昔、ヌーヴォー・ロマンに入れ込んでいた頃のことなどを思い起こさずにはいられないパン屋さんなのである。

「いいなあ、フランス語の放送が流れてると、本当にパリみたいだね」
 というと、真っ赤なセーターに真っ赤なマニュキュアの関谷さんは、
「わたしなんか、おうちでもフランス語の放送をずーーーーーーっと流してます」
 と、真っ赤な口紅を塗った唇をピクピクさせて自慢するのだった。
 その関谷さんから、 こんなメールが来た。

http://www.france-info.com/spip.php?rubrique9&theme=9 

↑お話ししたフランスアンフォです。
右に出てくる黒枠の、
player のところ、
direct で聴けます。

これをかけっぱなしにしたら「ル・プチメック」状態になります♪>

 試してみたら、なるほど、気分はおフランスである。しかも、タダというのが私の性分にマッチしていて、まことに、トレビアンなのである。

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