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2008年8月28日 (木)

神様が降りてくる

 先週末は和歌山の実家で、他にすることもないのでテレビをじっと食い入るように見続けた。普段はほとんどテレビを見ないので、とても新鮮である。北京オリンピックに関しては、8月11日の項に書いたように、うっかり中継を見てしまうとかなり一生懸命応援してしまい、その応援の甲斐がない結果になると心から落胆してしまうので、その結果を報じるニュース番組だけを見るように努めた。これだと、いい結果のみを集中的に何度も報じてくれるので、安心して見ることができるのである。
 
  何度も何度も繰り返し報道されたのが、女子ソフトボールの金メダル。特に上野由岐子投手が感涙に咽びながら、恩師でもある元監督に向かって人差し指を高く突き出すシーンは繰り返し放送された。何度見ても、いいシーンである。

  面白かったのは、各局各番組で上野投手へのインタビューが行われていたのだが、それぞれのスタッフの力量の差か、彼女から引き出してくるコメントが全く違っていたことだった。答える人は同一人物なのに、尋ねる人間が異なると、回答が変わる。聞き手の力量がそこに如実に現れてしまうのである。

  その中で、興味深い話を引き出していたのは、元プロテニス・プレイヤーの松岡修造氏だった。多分、「報道ステーション」での取材だったように思う。彼に応えて上野投手は、おおむね次のような話を披露していた。この話は、私が視聴した限りでは、他のどの番組ででも聞くことができなかった。

「最初の方の回で、すでに勝利を確信していました。というのも、これまで経験がないほどに自分は冷静で、ここに投げれば絶対に打たれない、という球筋が、まるで線でも引いてあるように、ラインで見えていたんです。だからそのライン通りにボールを投げればよかった。まるで、神様が降りてきたようでした」
 
 なるほど、そういうことがあるのかと話を聞きながら思った。ゴルフの世界ではそれを「ゾーンに入った状態」という。おそらく、ほとんど「となりに神様が降りてきたゾーン」に自身が突入するということだろうと思う。驚くべき集中力の中で、やることなすことすべてがいい結果をもたらすようになる。ドライバーは正確無比なだけではなく、距離も出る。アプローチはベタピン。パットというパットが奇跡的に入る。タイガー・ウッズは実にしばしば、この「ゾーンに入る」プレイヤーである。
  
  あることに極度に集中し続けると、そんなふうな状態に人はなるんだなあ、と実に興味深い感慨にとらわれた。で、テレビのチャンネルを変えると、NHKであの妖怪マンガでおなじみの水木しげるの顔のアップが映った。そこで、水木さんがこれまた興味深い話をしていた。
  
  戦中、水木さんは日本陸軍の兵士としてニューギニアに送られる。そこで自身が所属する部隊が全滅。一人、銃を捨て、丸裸になって逃走する。ジャングルの道なき道を闇雲に逃げる。文字通り、必死である。靴底は数時間で抜けた、という。水木さんが言う。

「僕は三日三晩、真っ暗なジャングルの中を走って逃げ続けました。その時に面白いことに気がつきました。ジャングルの中は道もないし、平坦でもない。なのに、僕はその三日三晩、一度もこけなかったんです。転ばなかった。一度も転ぶということがなかったんですよ。不思議ですね。そのとき感じたのは、ジャングルが僕を守ろうとしているということでした。ジャングルの神様が僕を守ってくれているんです」
  
  実に不思議な話ではないか。これに似た経験など、ほとんどの人間はしたことはないだろう。NHKのインタビュアーも、別にニューギニアでの霊的体験を聞きだすことが主眼ではない。ただ、戦中のニューギニアでの過酷な体験を聞く、というものだったのだが、水木さんはこのことが、よほど強く記憶に残っているのだろう。語らずにはいられなかったのである。
 
  極度の集中力を働かせている人間には、ときとして「神様が降りてくる」。降りてきてくれるだけでない。「手助けをしてくれる」のである。
  
  これほどの例ではないけれど、私にも似たような経験がある。ある企画を練らねばならず、何日も何日も、目覚めて意識がある間中考え続けていると、1週間ほどたった深夜、眠っているのに、まるで「空からそのアイデアが降りてきたように」、天啓のようにしてプランがするするっとまとまることがある。あ、メモしておかないと忘れる、と思い立って起きだし、枕もとのメモにあわてて書き留めるのである。その時、なぜ、自分はそんなことを思いつけたのかが分からない。
  
  メモを書いているのは自分なのだが、自分ではない誰かに書かされているような気にさせられることもある。上野さん、水木さんのような強烈な体験でないけれど、なんだか、妙な体験である。

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