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2009年9月21日 (月)

私の心は石ではないので

  世間はシルバーウィークに突入。その初日の土曜日に、ゲンちゃんとふたりでラウンドする約束をしていた。場所はいつもの五日市CC。

  5連休の初日だから、きっと高速道路は混むに違いないと、7時前に家を出た。一般道で五日市に向う。東八道路の野崎八幡前を左折し、下石原交番前を右折して甲州街道に入る。昨夜よく眠れなかったので、なんとなく体が重い。

  カーラジオはかけなかった。

    心が弱りきっていた。かろうじて平静を装っていられるだけで、何かの拍子に瓦解してしまいそうな予感があったので、できるだけ刺激を与えないほうがいいと思ったのだ。ラジオから流れてくる音楽で泣き崩れてしまいそうな気がしていた。

    ただひたすら前方の道路を見つめる。エンジンの音に心を集中する。余計なことは何も考えない。今日のラウンドのことを考える。日野橋から新奥多摩街道に入る。ただ、道路を見つめる。南コースの攻略法を考える。

    昨晩、辛いメールを書いた。涙がポタポタと漫画みたいに落ちて、キーボードが濡れた。あわててティッシュでぬぐった。書き終えてから、1時間ほど、声を押し殺して泣いた。泣きながら、こんなに泣くのはどれくらいぶりだろうと、頭の別の場所が考えていた。いったい、いつになったらもっと強くなれるのだろうかと。

    新奥多摩街道を内出交番前で左折し、睦橋通りに入ったところで、我慢ができなくなった。またしても大量の涙が溢れ始めた。目にワイパーがないと道路がうまく見えないほどだった。手の甲でぬぐってもぬぐってもひっきりなしに涙はこぼれてきた。まるで、母親に捨てられた子供のように泣きじゃくった。どうして人生はこんなにも悲しみに縁取られているのかと。

    ゴルフ場に到着したが、人が待つ正面玄関には寄らずに直接、駐車場に入る。車を止め、サイドブレーキをかけ、メガネをはずして両手で顔を覆った。なんとか落ち着こうと思った。車の座席に座ったまま、コンビニで買った牛乳を飲み、ヨーグルトを食べた。サンシェードの鏡を開けて自分の顔を見てみた。

    醜い男の顔がそこにあった。生気のない灰色の肌は乾いてしわだらけだった。鬢には白髪がまじり、無精ひげが伸びていた。頭の髪の毛は信じられないほどに少なくなっていた。57歳と5ヶ月のくたびれた男の顔がそこにあった。目は泣き腫らして真っ赤になっていた。ああ、こんなになっちゃったんだなあ、と人ごとのように思った。別に、こんな風になりたいわけではなかったのだ。いったい、どうすればもっと強い大人になれるのだろうか、と思った。

    フロントで手続きを終え、着替えてスパイクを履いてパターの練習場に行くと、ゲンちゃんがいた。よう、という風に手を上げて近づいてきた。近づくなり、「どうしたの? 目が真っ赤だよ」といった。「アレルギーが出て・・・」と答えたが、ゲンちゃんがそれを信じたかどうかは分からなかった。それ以上は何もいわず、「パターの練習をしようよ」と僕をいざなった。

    暑くもなく、寒くもない、気持ちのいい秋の一日だった。連休中だからだろう、他の仲間が集まらずに、ゲンちゃんとふたりだけのラウンドになった。「いいね、空気が乾いていて」と、ゲンちゃんは言った。「本当に、汗がすぐに乾くね」と僕が答える。夕方になると、赤とんぼが舞っていた。

    ラウンドを終えて、ふたりは風呂にも入らずに帰ることにした。キャディバッグをクルマにしまいこみ、エンジンをかけて出ようとしていると、ゲンちゃんのスマートが近づいてきた。ゲンちゃんは、ウインドーを下ろして話しかけてきた。

「この連休中に練習に行くなら、電話をかけて。一緒に行こう」
  
    僕はうなづいて、自分の車をスタートさせた。一足先にゲンちゃんの草色のスマートが発進し、すぐに視界から見えなくなった。

   帰りに三鷹のサミットで卵と缶詰と牛乳とヨーグルトを買った。心を病んで自室にこもったままの息子のための食料として。同じ屋根の下に暮らしているが、もう3年も顔を見たこともない。息子は虫のように静かに悲しく生きている。

  帰宅して風呂に入り、缶ビールを一気に飲んで8時頃に眠りに着く。このまま、眠りから醒めなくても一向にかまわない、と思った。

  2009年9月19日。南51、東40 トータル91

  爽やかな秋の一日に、また、少しだけ、僕が死んだ。

http://www.youtube.com/apartRECORDS

http://www.youtube.com/watch?v=tdI0OTRYwIo&feature=related  

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コメント

何が辛いの?
それとも、孤独感が一番辛いの?

投稿: カナ | 2009年9月24日 (木) 08時02分

カナさま、お気遣いくださってありがとうございます。
何が辛いのか? 一言で正しくご説明することはなかなか
難しいですが、あえて言ってみると「心の拠り所がなくなった」ということでしょうか。今現在の居場所もなければ、この先どこへ向って歩いていけばいいのかももう、よく分かりません。いい歳なのに、なんでそんなことを今頃言っているのかと思われるかもしれません。自分でもそう思います。でも、それが自分なので、こればかりはどうしようもありません。人生には陶酔薬(euphoriant)のようなものがどうしても必要なのです。

投稿: カナさま 路傍より | 2009年9月24日 (木) 15時36分

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