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2009年12月 8日 (火)

ネズミが来た!

 
   築10年の木造住宅に住んでいる。自室は1階の北側にあり、毎夜そこで眠っている。真上には台所と風呂場がある。バスタブには一晩中お湯がたまっているので、その真下は気持、暖かいような気がする。

 そのせいなのかも知れない。毎夜、3時か4時頃、ネズミくんがやって来る。

   初めてその足音を聞いたのは4年ほど前のことである。シーンと静まり返った真夜中、天井に、パタパタパタという、ネズミくんのかわいい足音が聞こえた。四肢の動作が手に取るように分かる、細かな足音である。

   最初は、幻聴ではないかと、思った。ついに自分は精神が錯乱してしまったのだと思ったのだ。アメリカ風輸入住宅の1階の天井裏をネズミくんが走り回るなんてことを、誰が思いつくだろうか。

   しかし、それは幻聴などではなかった。ネズミくんは毎夜、決まった時間になると、頭上を走り回り始めたのだ。家を建ててくれた工務店の担当者を呼んで、夜中にネズミくんが走り回って困る、と訴えたのだが、しばらく家の周りを調査した後、「ネズミが入り込むすきまなどありません」と断言して帰っていった。

   仕方がないので、大好きなホームセンター「Jマート」に行って、ネズミ撃退機(コンセントに差し込むとキーンという超音波を発する)を数個買ってきて部屋のあちこちに取り付けてみた。そのおかげか、ネズミくんは、しばらくはおとなしくしてくれていたようである。

   しかし、ここ最近、撃退機などなんのその、ネズミくんは毎夜3,4時にパタパタパタという足音をさせてやってくる。普通は歩いているのだが、時々は走り回ったりしている。時には複数の仲間もやってきているのか、チューなんていう奇声をあげたりして騒いでいる。

   最初のうちはスリッパを天井に投げつけたり、ゴルフ・クラブで天井をガンガン叩いたりしていたが、全然効果がないのでやめた。そのうちに年老いて、死んでしまうだろうと思ったのだ。もっとも、その子供たちがやってくるかも知れないけれど・・・。

   子供の頃、大阪市阿倍野区阿倍野筋の長屋のような住宅に住んでいた。平屋で3軒ぐらいが連なっていて、境目は単なる土壁が一枚あるきりだったから、落語に出てくる長屋のようなありさまである。昭和30年代の話である。

   この家でもネズミくんは跋扈していた。夜中に家族4人が並んで寝ていると、天井裏をドタバタドタバタと走り回っていた。そのこと自体には、別段に問題はなかったが、困ったのは、天井からネズミくんのダニが落ちてくることだった。朝起きると、お腹のあたりが咬まれてプチプチと赤くなっていた。

   やつらをやっつけなければならない。親たちはそう思ったに違いない。猫いらずが家の各所に置かれ、ネズミ捕りのボックス(針金の網でできたやつ)もしかけられた。

   ある夜、押入れから布団を出そうと、襖を開けると、布団の隅に、ネズミくんがいた。元気がなく、じーっと暗い目でこちらを見つめていた。猫いらずを食っちゃったのだ。この毒を食らったネズミくんは、明るいところに出てきて昇天する。今わの際のネズミくんの目はなんともいえず恨めしそうだった。

   明るいところに出てきてくれるネズミくんはまだ立派なほうで、中には天井裏でご臨終になるネズミくんもいた。するとどうなるか? 天井裏で腐るのである。2週間ほど、家の中に腐臭が漂う。その臭いは今でも思い出すことができる。独特の甘い臭いである。そして、天井の板に半径50センチほどの奇妙な形のシミができた。

   当然、ネズミ捕りの網にかかるネズミくんもいた。網の中でチューチューいっている。哀れである。

   長屋の前には下水が流れていた。幅25センチ、深さ15センチほどのくぼみが走っていてそこを生活排水が流れている。蓋はない。ときどきキャッチボールのボールがその汚い下水に飛び込むことがあったが、当時の少年はそんなことは一向に平気で手で拾ってキャッチボールを続けていた。

   その下水の壁はぬるぬるしていて、よーく目を凝らしてみると、角ばった場所に赤い色をした糸のような虫がへばりついてうようよしていた。金魚の餌にするような虫である。近所の少女たちはこの下水に跨っておしっこをしていたから、大らかな時代である。当然われわれもそこでおしっこをした。

   そんな下水があちらこちらから集まるコーナーのような場所があり、そこの水位は50センチほどの深さがあった。網に入ったネズミくんはザブザブとそこに漬けられた。何とか呼吸をしようと鼻を上に向けチューチュー泣いている。

   たまたまそのとき、そばに祖母がいて、手に金槌を持っていた。それで、網から必死で突き出しているネズミくんの鼻先をガツンと叩いていた。いいようもなく哀れである。死んだネズミくんをどうやって処分していたのかは皆目記憶にない。

   そんな具合で、ネズミくんとの付き合いは長い。

   高校時代のことである。実家が山奥なので、一般の民家に下宿していた。朝晩、食事を用意してもらい、風呂にも入らせてもらっていた。ある夜、喉が渇いたので、台所に入っていき、パチンと電気をつけた。その瞬間、ガサゴソガサゴソという音がした。何事だ、と驚いてそのほうを見ると、トースターのパンを入れるところ(長細い入り口)からネズミくんが、よっこらしょと出てきたのだ。

   驚いた。あんな狭いところからもぐり込んでパンくずを食っていたのである。トースターから飛び出したネズミくんはたちどころにいなくなってしまった。

   困惑したのは翌朝である。朝起きて、食卓につくと、お皿の上にはトーストが乗っていた。うーむ、とためらった。食うべきか食わざるべきか。しばし悩んだが、トースターの中にネズミくんが入り込んでいますよ、とは言えなかったのだ。

   悩んだ末に高校生の私は、えーい、ままよとそのトーストを食べてしまったのである。熱で消毒されているから大丈夫だ大丈夫だと自分に言い聞かせながら・・・・。

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パチパチパチ。

投稿: mike(猫♀) | 2009年12月 8日 (火) 21時30分

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