文化・芸術

2008年11月27日 (木)

安宅コレクションを見る

   で、鶴橋で焼肉食ったけど、あまりおいしくはなかった。確かに値段は安いが、目からうろこが落ちるほどの感動は覚えなかった。そういうものを食べたければ、鶴橋以外の地域に行かねばならないのだろうか。
  
   鶴橋はまるで戦後の闇市がそのままそっくり残ったようなディープなエリアだが、ディープだからといって、必ずしも旨いものに出会えるわけではない、ということを悟った。
  
  大阪では、仕事の合間に、中之島公会堂のすぐそばにある大阪市立東洋陶磁美術館にでかけた。ここは、かの安宅英一氏が人生をかけて収集した美術コレクション(主に中国と韓国の古い陶磁器)が静かに展示されている。

  安宅英一と聞いてぴんと来る人も、もう少なくなったかもしれない。1977年に倒産、伊藤忠に吸収合併された大手の総合商社「安宅産業」の会長で、退任後は「相談役社賓」という聞いたこともない肩書きのもとで、社内で隠然たる力を持ち、社の経費を使って「安宅コレクション」という名の、美しい陶磁器コレクションをなした人物である。

  コレクションを保有する会社が倒産したのだから、普通であればすべてが叩き売られて現金化されるところだが、さる金融機関の雅量で(だと思うが)、すべてがそのまま、私立の美術館という体裁を保って保存されている。

  展示されている陶磁器は、ある繊細な美意識によって選び抜かれたものばかりで、眺めているうちにある種の酩酊に襲われる。

  陶磁器にはなんの造詣もないけれど、名品を次々と見ているうちに、自分は朝鮮の白磁が好きなことに気がつく。素朴でてらいのない乳白色の器は、なぜか優しい気持ちに誘ってくれるように思う。こんなの一個ほしいな、と思うけれど、とてつもなく高い値段であろう。

  その美術館の売店で、面白い本に出会った。「安宅コレクション余聞 美の猟犬」伊藤郁太郎著(日本経済新聞出版社)。伊藤氏は東北大学の美術史学科を卒業して安宅産業に入社。以来、倒産するまで、かの安宅英一氏の手となり足となって、そのコレクション収集に従事し、倒産後は、この美術館の館長となって安宅コレクションの守護神として、今は亡き安宅氏の「美しい遺品」を守り抜いている人である。

  不思議な人生である。ほぼ全人生を、ある人の美術コレクションに捧げたも同然なのである。そんな身の上を、伊藤さんはこんな風に書いている。

<(この書物は)あくまで個人的な記憶のきれぎれを集めたパッチワークである。さらに言えば、安宅さんという確固たる美の王国の領主に仕えた一介の猟犬、ただし、狙う獲物を指示されれば、脇目も振らず驀地に疾駆していった忠実なる美の猟犬のドキュメントであり、ほろ苦さも交えた追想録でもある。>(P14)

  一読すると、安宅英一なるひとが、いかにとてつもない人であったかを教えられる。もっと細かく書きたいが、そろそろ家に帰って寝ないといけないのだ。明日の朝は早くから会議なのである。そんな真面目な人生、これまで送ってなかったのに、なんでこんなことになっちゃうんだろうなあ。

  

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