経済・政治・国際

2008年11月 6日 (木)

オバマ新大統領と「打倒! 自由主義経済」

  

  10月16日の項で、こんな風なことを書いた。


  アメリカが今回の甚大な金融危機を引き起こす前に、こんなことをしていては大変なことになるよ、と注意を促す叡智の人がアメリカにはいなかったのだろうか。いかに鈍重でも、米国金融界のかくも傍若無人な振る舞いを見ていれば、一言言わずにはいられなかったのではないか、と。

  もちろん、そういう人はいた。ただ私が知らなかっただけで、早くから警鐘を鳴らし続ける経済学者が確かにいたらしい。ただ日本のマスコミは、危機が起きる前に、ではなく、危機が訪れたその後に、彼らの意見を紹介している。まさに後知恵以外の何物でもないのだが・・・。

  月刊誌「WILL」の12月号でG・ボグダン氏が紹介しているのが、今年ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学教授のポール・クルーグマン氏の意見。こんな記事である。

<彼(クルーグマン氏)はコラムの中で、再三ブッシュ大統領が推し進めたグローバリゼーションや80年代から増え続ける個人と国の借金を憂い、深刻な危機の訪れを訴えてきた。
  まさに「予言者」となったクルーグマン氏は、金融危機が訪れたそのとき、ヘンリー・ポールソン財務長官に書簡を送っている。その中では、「あなたはロシアン・ルーレットを楽しんでいる」と綴られ、誰かが確実に銃弾を撃ち込まれることを言い当てていた。>(P28)

      もう一人が、やはりノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授。(余談だが写真家のアルフレッド・スティーグリッツはスティーグリッツと音引きが入るのに、こちらは無しで表記するんですね。不思議)

   このスティグリッツ教授の意見を11月3日付けの朝日新聞が掲載している。

<責任はまず、金融界やモーゲージ業者、そして私が「共犯者」と呼ぶ各付け会社にある。背景にあるのが、自由な市場経済を口実にしたブッシュ政権の規制緩和と企業優遇策だ。・・・・FRBにも不良債権の毒を爆発的に広げた重大な責任があるが、とりわけ非難されるべきはブッシュ政権の政策だ。>

  と、ブッシュ政権の非を強く唱えている。

<この危機をきっかけに、新自由主義は終わりを迎えなければならないと思う。規制緩和と自由化が経済的効率をもたらすという見解は行き詰まった。
  ベルリンの壁の崩壊で、共産主義が欠陥のある思想であると誰もが理解したように、新自由主義と市場原理主義は欠陥のある思想であることを、ほとんどの人が理解した。>

  彼らがここで再三主張していることは、ブッシュ政権(共和党政権)がとり続けてきた「新自由主義」は完全に行き詰ったということである。

    アメリカの共和党が堅持する、伝統的保守思想は「自由主義」である。信教の自由を求めてヨーロッパから命からがら逃げてきた人々が打ち立てた国アメリカでは、何よりも自由である、ということが第一義的に重要視される。経済における自由主義とは、自由市場で勝手に競争させておけば世の中はよくなるという信念である。よって、市場経済に関して政府の権限は小さければ小さいほどいいということになる。

   そんな信憑が共和党には根強く息づいているらしい。

   しかし、アメリカの国民はこのたび、次期大統領として民主党の、バラク・オバマを選出した。この行き詰まりを解消してくれるのは、もはや共和党ではない、という考えに国民の多くが傾いたからなのだろう。

   共和党が奉じる信念が「自由」であるならば、民主党が掲げるのは「平等」という名の松明である。簡略化して言えば、自由と放任は常に手を携えているので、時には自由をセイブしてでも、平等をもたらさねば、人は幸せにはなれない、という信憑である。

   したがって、今後、アメリカでは監督・規制が極めて強化されるだろう。オバマ新大統領は明確にその方向に向かって舵取りをするだろう。国民の大多数がそれを望むのだから。そのことで、すくなくとも金融業界の放埓なふるまいは当座抑制されることになるだろうことは想像に難くない。

   しかし、すぐにオバマが思い知らされるのは、アメリカのエスタブリッシュメントはその金融業界の方々によって形作られているという、厳然たる事実である。さて、どうやってオバマは生き延びればいいのか。

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2008年10月16日 (木)

サブプライム問題が分からない

   

   またしても、分からぬことがある。他でもない、サブプライム問題についてである。まことに恐縮だが、もしご存知であればどなたかご教示いただけないであろうか。どこのボタンを押せばこのことに対する回答が飛び出してくるのか、そのことも分からない。分からないことだらけなのである。

● まず、サブプライム問題というのはこういう解釈でいいのだろうか。米国に住む、信用力の低い人(つまり、借金を踏み倒す可能性が一般的な人より高い人)に対して、米国の金融機関は、サブプライム・ローンと称する、一見お手軽だが、実際には利率の高いローンを使ってお金を貸し付け続けた。低信用力な人々はその借金で、分不相応な住宅購入にあい努めたわけだが、これも、住宅価格が右肩上がりで上昇している間は、辻褄があった。しかし、永久に値上がり続ける商品はこの世に存在しない。ひとたび住宅価格の上昇が止むと、借金を返せない人々が続出し始めた。ここまでは、実に分かりやすい話である。

この時、金融機関はいったい、どのくらいの損失を蒙ったのか? データを持っているわけではないので大まかに考えると、3000万円の借金をして同額の住宅を買い、返済不能に陥って借金を踏み倒した人が10000人出たとする。これが3年間にわたって起きたとすると、踏み倒された金額は総額、9000億円である。その10倍の10万人が踏み倒したとしても9兆円である。実際には貸し手は土地・家屋の担保を取っているだろうから、そこまでの金額にはならないだろう。つまり、この仮定の見積もりがそれほど間違っていなければ、金融機関は自らが抱かえた数兆円の損失を、確かに膨大な金額ではあるが、それをなんとか処理すれば、それで済んだ話であったはずなのだ。

しかし、報道によると、米国は、不良資産買い取り制度などを柱にした「緊急経済安定化法」(金融救済法)に基づいて、最大7千億ドル(約75兆円)の公的資金を投じ、金融機関から住宅ローンや関連の金融商品などを政府が買い取ることにしたという。しかも、一部報道によると、この規模の資金投入では焼け石に水で、その10倍くらいの資金投入が必要になるだろう、と言う。10倍なら、750兆円である。一体全体、どうしてそんな巨額な資金が必要になったのだろうか? 我が国の国家予算・約83兆円に比してもベラボーな金額ではないか。

そんなことになってしまった最大の理由が、サブプライム・ローンの証券化にある、と説明されているのだが、このあたりのことがよく分からない。サブプライム・ローンの貸し手である金融機関は、踏み倒される危険性を十分に察知していて、その危険度を分散させるために、ローンを貸付債権として証券化・分割し、複数の金融商品の構成要素の一つとして細切れに組み込み、世界中に販売したというのだ。

まず、具体的にイメージがわかないのが、「債権の証券化」というテクニック。こりゃ、具体的にどうすることなんだろうか。たとえば、3000万円の住宅を購入するために全額ローンを組んだ低信用力の人がいるとする。金融機関は、この人に対する債権を証券化する。どうせそのうちに踏み倒されるんだから、この危ない債権をいつまでも自分で゙保持するのは賢明なことではない、さっさとこれに値段をつけて(高利の利息がつくからおいしいよ、と3500万円くらいで)他人に売り飛ばしちゃえ、というのが「債権の証券化」ということなのだろうか? 多分、極めて単純化して記しているから乱暴に聞こえるかも知れないが、本質的にはこういうことではないだろうか。

もしそうだとすると、「完済確立の低いローンを貸付債権として証券化・分割し、複数の金融商品の構成要素の一つとして細切れに組み込み、世界中に販売」するという行為は、人として、してはならない、恥ずべき行為なのではなかろうか。しかも、「細切れに組み込む」ことによって、その金融商品にサブプライム・ローンの証券が混入していることが分からなかったり、あるいは意図的に隠蔽していたりしたケースさえあったというから、こうなると、牛乳にメラミンを混入していた中国の業者となんら変わるところがないのではないか。

本来ならば、数兆円の損失で済んだはずの、米国金融機関の無分別な貸付行為の結末も、それを細分化してそれと分からなくしていろんな金融商品に混入したものだから、驚くべき巨額の損失に膨れ上がってしまったわけである。つまり、メラミンの入った牛乳は丸ごと廃棄するしかないように、サブプラ関連商品が混じった金融商品全体が崩壊してしまったわけなのである(と思う)。その結果、連鎖的に金融機関、金融システムの信用不安が噴き出してしまった、というのがことの成り行きであろう。

そう考えると、証券化が許される債権というのは、「高い確率で借金は返済される」という見込みがあるものに限るべきで、そうでなければ、狂牛病にかかった牛の肉を、二束三文で焼肉屋に売り飛ばすのと同様の行為ではないのかと思わざるを得ない。そんなものを売り続ければ、発病する人間が出てくることは明々白々であったはずである。

そこで思うのは、米国には経済界にも金融界にも叡智の人士は多数いたはずであるのに、何故、その中の誰ひとりとして「こんなことをしていたら大変なことになるよ」と警告を発したりしなかったのだろうか、という疑問である。米国金融界がやったことは、どう考えてもまともな人間のやることではない。はっきり言って「狂気の沙汰」である。彼らが「金儲け」をたくらんで無邪気に振舞ったその行いは、核兵器のそばで打ち上げ花火をあげて遊んでいるような無思慮な行為であると思う。

ひょっとして、我々が知らないだけで、我々の耳に届かなかっただけで、この無思慮な経済活動の悲劇的な結末を誰かが予告し、警告していたのだろうか。マスコミはその声に耳を貸さなかったのだろうか。土地バブルで狂奔していた80年代の我々と同様、米国国民はみんな目が見えなくなっていたのだろうか。そこのところが、一番私が分からないところなのである。だって、冷静に考えれば、誰がババを引くかという、危険なゲームでしかなかったのだから。

●   次によく分からないのが、米国の態度である。毎日新聞の記事にこんなことが書いてあった。

<ブッシュ米大統領は(10月)11日、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に出席した各国財務相らをホワイトハウスに招き、G7がまとめた「行動計画」や各国の金融危機対応について意見を交わした。大統領がG7財務相と直接会談するのは異例。
 会合には、ポールソン米財務長官や中川昭一財務・金融担当相、ダーリング英財務相らG7財務相のほか、ゼーリック世界銀行総裁とストロスカーン国際通貨基金(IMF)専務理事も参加した。
   会談終了後、ブッシュ大統領は声明を読み上げ、「金融危機は世界のすべての市民に深刻な影響を与えている」との認識を示した上で「世界中の国が協調して迅速に行動する必要がある。米国は金融危機に対処するため率先して特別な役割を担う用意がある」と表明。G7の行動計画に沿って、金融機関への公的資金による資本注入などに前向きに取り組み姿勢を強調した。
   ブッシュ大統領は10日のG7会合に先立ち、公的資金による金融機関への資本注入を実施する考えを表明していた。
[毎日新聞10月11日] >

    これを読んで、驚いた。ブッシュ大統領は各国財務相らをホワイトハウスに「招き」と書いてあるが、これは後ろの文章を読むと「呼びつけ」の間違いではないかと思う。呼びつけて、ブッシュ大統領は何を言ったか。

まず、開口一番、「金融危機は世界のすべての市民に深刻な影響を与えている」と言ったのである。ちょっと待ってくださいよ。あなたの国の金融機関が無茶苦茶やったから世界の金融事情が無茶苦茶になっちゃったんじゃないですか。「深刻な影響を与えている」などと他人事なことをほざいている場合ではなくて、まずは、「うちの若い衆がほんとに迷惑かけた。悪かった。ほれ、このとおり、土下座して謝る」というのが、筋なのではなかろうか。私がブッシュならそうするし、私が各国財務相の一人ならばそれを求めるだろう。
しかも続けて、「世界中の国が協調して迅速に行動する必要がある」とえらそうなことをのたまうのである。お前に言われたくないよ、と熊さん・はっつぁんなら言うだろう。どうしてお前はそんなにえらそうなんだよ。上から目線で物言ってんじゃないよ。お前がちゃんと監督責任を果たさないばかりか、音頭とってチャンチキおけさを踊っているから世界中がしっちゃかめっちゃかになっちまたじゃねえかよ。どうしてくれんだよ、ぼーっとアホ面さらしてんじゃねえよ! とまくし立てるに違いない。

しかし、熊さん・はっつぁんの憤りをよそに、米国政府や金融当局は、サブプライム・ローン問題が、直接的に金融システムないしは信用システムに危機的悪影響を及ばしたという見解を否定している。どういう理屈でそういう態度がとれるのか、ここも私には分からないところである。自らの非を認めていないわけだから、土下座なんかするわけもなかったわけもない。その理説をどなたか、説明してくれないだろうか。

● 最後に分からないことがひとつ。マネーゲームにおいては、誰かが大損をするということは、それと同じ分だけ、大儲けをした人がいる、ということである。マスコミはまるで天災のように金融危機を報じ続けているけれど、一向に大儲けした人のことを報じようとはしない。もっとも、そういう人がいるとしても、「うわあ、一晩でこんなに大儲けしちゃいましたあ」と大声でアナウンスしたりはしないだろう、ということは想像に難くない。難くないけれど、そういう者がいるということを報じないのは、物事の一面しか見ていないことになるのではないか。殺された人間がいる、ということは殺した人間がいるということなのだから。

色々と調べていたら、大儲けした人の一人が分かった。Institutional InvestorのAlpha誌の調査によると、2007年のヘッジファンド業界の報酬トップはPaulson & Co.の創業者、ジョン・ポールソン氏の37億ドル(約3800億円)だったという。ポールソン氏のヘッジファンドは住宅担保証券の下落で大儲けしたらしい。しかもあろうことか、このポールソン氏は元ベアー・スターンズのマネジングディレクターだったのである。

そう、ベアー・スターンズというのはアメリカ第5位の投資銀行・証券会社大手の1つであったが、アメリカにおけるサブプライム・ローン問題が原因で経営が急速に悪化、ニューヨーク連邦準備銀行が緊急融資を行って対策を講じたものの、その甲斐なくこの5月30日にJPモルガン・チェースに買収されたばかりの会社である。実に倒錯した話である。サブプライム・ローン問題が引き金となってぶっつぶれた会社のマネージング・ディレクターが、その問題に乗じて、個人的に3800億円儲けていたのである。この倒錯ぶりに、この世界の怪しさが如実に投影されているような気がしてならない。

● 最後の最後にもうひとつ、全く分からないことがある。ここ最近の米国の株価、ダウの動きは全く尋常なことでなはい。日替わりで、ジェットコースターのように上がったり下がったりしている。

その動きを見ていると、これは「国家的な株価操作」なのではないか、という気がしてならない。何か証拠があるわけではない。ただその動きを傍観していて、ありえないことが起きていると、強く実感するのである。通常の株取引を行っていればこんなことは絶対に起きないことが起きていると思う。まるで陰謀史観のようではあるが、米国金融機関、というより米国経済といったほうが適切かもしれないが、それが末期的症状を呈し始めたなか、影でうごめくヘッジ・ファンドや投資銀行や、それを隠れ蓑にした世界の有名銀行や投資家たちが、どさくさにまぎれて株価を操作しているように思えてならないのだ。

9月29日、米国下院はブッシュ大統領が推し進める、米国金融救済法案を否決した。全世界がびっくりである。その直前までブッシュ大統領はこの法案が通ればもう安心とばかり、余裕をかましていたのである。世界もそれを見てすっかり安心。世界の株価も法案可決を見込んで上伸、ところが蓋を開けてみたらびっくり仰天の否決である。直後のNYダウは採用30の全銘柄が値を下げ、平均株価は777ドル、過去最大の下げ幅を記録。それを受けて世界中の株価が大暴落したのである。

この法案の否決を見越していた、一部の人々がいただろうと私は思う。彼らは、それによって巨額の利益を得たに違いない。もちろんあくまで推測である。証拠はない。証拠が残るようなヘマを彼らは行わないであろう。あるいは、ヘマがあったとしてもそんなことをいちいち気にしていられないほどの非常事態が現出してしまっているから、誰も気に留めないに違いない。当局もマスコミも、もう何がなんだかよく分からないのである。

5年後か10年後か、いつのことだかわからないが、この狂気の日々に何が起きていたか、誰が何をしていたかを、白日の下に晒すようなレポートを誰かにまとめて欲しいものだとしみじみ思う。

我々の、愚劣な歴史の一幕を。

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